バイオ系の研究室を志望する学部生は何をすべきか ―生命科学分野の「語彙」と「構造」を学ぶ―


前回の記事では、生命科学分野の勉強 ―試験や単位を取るための作業ではなく、専門知識の増強や、研究室配属に向けた準備といった自主的な作業(独習)としての勉強― のDon’t、「専門書の通読は非効率である」という主張を述べた。今回の記事ではDo’s、何をすべきかを述べる。

そもそも、生命科学分野でサバイブするための能力は「研究室に入れば自然に身につくもの」というのが筆者の持論である。徹夜で解析を行い、学会のオーラル練習で喉を嗄らし、論文の草稿を原型が無くなるほど修正される経験を通じて、「何となく」この分野について「分かってくる」ものである。そのため、学部生のうちは分野外の勉強や課外活動などに注力していても全く問題はない。*1 それでもあえてDo’sを提案するのであれば、バイオ系の研究者を志す高校生や学部生には、生命科学分野における「語彙」と「構造」の理解に時間を割くことを推奨したい。

 「語彙」を理解するということは、生命科学の専門用語、例えば生物の学名や分子複合体の略語を暗記するということではなく、その業界の人々の話し方や独特の言い回しに慣れるということである。前回の記事で指摘したように、生命科学分野の発展は日進月歩であり、新規の発見や開発の成果が毎日発表されている。そして、新規の発見・開発には、新規の名前が与えられる。そのため、生命科学分野で用いられる専門用語の数は毎日増加していると言っても過言ではない。このような状況下で全ての専門用語を暗記するのは不可能である。そこで、生命科学分野の人々が好んで使う「語彙」つまり、話し方や独特の言い回しに適応し、その都度理解していく能力が求められる。全ての専門用語を逐一暗記するのではなく、「『A』という解析の論文では『a』的な表現が頻発している」「『B』という研究対象は『b』的な表現でよく説明されている」というような感覚を身に付けることが重要である。

 「構造」を理解するということは、生命科学分野という業界(アカデミア・ビジネスを問わず)のルールを理解するということである。一般的な生活をしていれば「研究」という活動の実態は不透明である。ましてや職業研究者などという希少動物には出会うことも少ないのではないだろうか。筆者も学部生の時は全くの無知であり、教授というのは実験を沢山するのが仕事だと思っていたし、博士号は3年間努力すれば自動的に与えられる制度だと思っていた。そのため、研究室に配属されて、授業準備や競争資金の獲得に忙殺される教授の姿や、博士課程に8年間在籍している先輩の姿を見て驚愕したものである。大学の退屈な座学や綺麗に体系化された専門書からは、労働集約型で泥臭い生命科学分野の世界を垣間見るのは難しい生命科学分野という業界の「構造」を早期に知ることは今後の人生設計に役立つことであろう。何事も、新たな世界に飛び込む前にはルールを理解することが重要である。

 以上、「語彙」と「構造」の理解に努めることが、生命科学分野の勉強として有益であるという主張を述べた。ある分野の「語彙」と「構造」の理解は、その分野における「思考方法」の理解に直結する。この2つを意識することは、将来の研究活動における大きな糧になるであろう。次回の記事では生命科学分野の「語彙」と「構造」を理解するための具体的方法を述べる。

 

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*1:現にアカデミアで成果を残している人物は、趣味などの研究以外の「一芸」に秀でた方が多いように思う。